OECDのAI原則 第2回

OECDのAI原則 第2回

※OECD「工学技術予測フォーラム会議」@パリ(2016.11.)(前列右から3番目が筆者)

経緯・背景——日本が主導権を執って築いた国際標準としてのAI原則

AI原則の理事会勧告採択に向けた経緯を端的に紹介する記事を、筆者は日本経済新聞に依頼されてその「経済教室」欄に寄稿したことがあるので、以下、その該当部分を引用しておこう。

世界標準や国際的なルール作りの場で日本が主導権をとる機会は、めったに見られなかった。いまなぜAIの諸原則作りで日本が注目を集めているのであろうか。

AIは経済発展の鍵となる...技術として、大きな期待を集めている。他方、AIの制御不可能性や不透明性などの問題が明らかになり、ヒトの仕事を奪って大勢の失業者を生むとか、差別的な人事評価を下す恐れがあるなどと指摘されている。

AIが社会から信頼され受容されるように、負の側面を極少化させつつも開発を萎縮させないための試みとして、日本の行政関係者らは16年ごろから世界に先駆けて「ソフト・ロー」と呼ばれる諸原則作りの議論を始めた。ソフト・ローとは、強制力はないが自発的な順守が期待される穏やかな規範である。有識者を集めた政策立案会議で議論し、成果を公表した。

これがOECDの目にとまり、今ではOECDが日本の提案を参考にした諸原則作りを、世界の専門家を集めたAI専門家会合で行っている。

最終的にはOECD理事会勧告として、加盟各国に対して順守が望ましいと示すことが目指されている。

出典:平野晋「経済教室GAFA規制を考える(中)」日本経済新聞社2019年2月20日朝刊(強調付加)

上の「日本の政府関係者らは16年ごろから...諸原則作りの議論を始めた。...。有識者を集めた政策立案会議で議論し、成果を公表した」という部分は、筆者が参加して来た以下〈表2〉の有識者会議とその成果の公表を意味する。従って〈OECDのAI原則〉を深く理解するためには、日本における以下の成果(原則やガイドラインや報告書等)を参照することをお勧めする。

表2:国際標準の基になった日本発AI諸原則・ガイドライン・報告書と有識者会議

年月有識者会議名成果
2016年2月~6月総務省「AIネットワーク化検討会議」報告書2016」(含「AI開発原則」のたたき台4
2016年10月~現在総務省「AIネットワーク社会推進会議」報告書2017」(含「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」)
報告書2018」(含「AI利活用原則案5」)
報告書2019」(含「AI利活用ガイドライン」「AI利活用原則の各論点に対する詳説」)
2018年5月~2019年1月内閣府「人間中心のAI社会原則検討会議」人間中心のAI社会原則」案
2019年2月~3月内閣府「人間中心のAI社会原則会議」6人間中心のAI社会原則」(最終版)

さらに前掲「経済教室」記事中の「これがOECDの目にとまり」の部分は、上の成果や検討過程を、OECD等に於いて日本が矢継ぎ早にアピールしてきたことによる結果である。(以下〈表3〉と写真参照)

表3:〈OECDのAI原則〉に向けた日本政府の働き掛けの例

開催年月日本の成果・検討過程を発表した会議体会議名
2016年4月G7(@香川・高松)情報通信大臣会合(〈表2〉の「AI開発原則」たたき台を総務大臣が紹介し、国際的な議論を進めることについて諸国大臣から賛同された7
2016年11月OECD(@パリ)人工知能の工学技術予測フォーラム2016(Technology Foresight Forum 2016 on Artificial Intelligence)(日本の取り組みを筆者が紹介)
2017年1月カーネギー国際平和基金(@ワシントンD.C.)(在米日本大使館後援)人工知能と日米同盟結合(Artificial Intelligence and U.S.-Japan Alliance Engagement)(日本の取り組みを筆者が基調講演として紹介)
2017年3月総務省(@東京大学伊藤謝恩ホール)AIネットワーク社会推進フォーラム(日本の取り組みを当国際的コンフェレンスにて筆者が紹介)
2017年10月OECD&総務省共催(@パリ)人工知能に関する会議——AI:知的な機械とスマートな諸政策( Conference on Artificial Intelligence - AI: Intelligence Machines, Smart Policies)(日本の取り組みを筆者が紹介)
2018年9月
~2019年2月
OECD「AI専門家会合
(@パリ、ボストン、及びドバイ)
(詳細は以下〈表4〉参照。)
AIGO「エイゴー」又は「エイ・アイ・ゴー」と発音:Artificial Intelligence Group of experts at the OECD
(日本の知見を筆者が日本共同代表として主張)(以下〈表4〉参照。)
カーネギー国際平和基金「人工知能と日米同盟結合」に於ける筆者の基調講演@ワシントンD.C.(2017.1.)

カーネギー国際平和基金「人工知能と日米同盟結合」に於ける筆者の基調講演@ワシントンD.C.(2017.1.)

OECD事務次長—左端—らとYouTube動画座談会中の筆者@パリ(2017.10.)

OECD事務次長—左端—らとYouTube動画座談会中の筆者@パリ(2017.10.)

OECD&総務省共催「人工知能に関する会議」@パリ(2017.10.)

OECD&総務省共催「人工知能に関する会議」@パリ(2017.10.)

4 総務省・AIネットワーク化検討会議「中間報告書:AIネットワークが拓く知連社会(WINSウインズ)—第四次産業革命を超えた社会に向けて—」2016年4月15日51~56頁(last visited Aug. 14, 2019)(OECD1980年プライバシー原則に倣って8つの開発原則のたたき台を提示し、これが同月29&30日に日本で開催されたG7情報通信大臣会合に於いて高市早苗総務大臣から公表されて各国大臣から賛同された—後掲注7参照—。なお開発原則のたたき台はその後、改組されたAIネットワーク社会推進会議の検討を経て9原則から成る「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」に発展して行った)

5 See 総務省・AIネットワーク社会推進会議「報告書2018―AIの利活用の促進及びAIネットワーク化の健全な進展に向けて―」2018年7月17日54~64頁(last visited Aug. 14, 2019)(AI利活用原則案として10原則を紹介・解説している)

6 内閣府・統合イノベーション戦略推進会議決定「人間中心のAI社会原則」2019年3月29日13~14頁『別添』及び『別紙』(last visited Aug. 14, 2019)(内閣府のAI戦略実行会議2019年2月15日決定として[「人間中心のAI社会原則検討会議」を改組して]「人間中心のAI社会原則会議」—「検討」の二文字削除—を設置し、かつその構成員は「検討会議」のそれを引き継ぐ旨を記載)

7 総務省「『AIネットワーク社会推進フォーラム』(国際シンポジウム)の開催」2017年2月17日(last visited Aug. 14, 2019)(「同年[2016年]4月29日及び30日に行われたG7香川・高松情報通信大臣会合において、高市総務大臣から、『AI開発原則』の策定に向け、G7、OECD等において国際的な議論を進めるように提案した結果、参加各国から賛同を得ることができました」(強調付加)と指摘されている)