執筆 平野晋
中央大学国際情報学部教授&学部長※
米国弁護士(NY州)
2016年2月~6月 総務省「AIネットワーク化検討会議」座長代理
2016年10月~現在 総務省「AIネットワーク社会推進会議」幹事
2018年5月~2018年12月 内閣府「人間中心のAI社会原則検討会議」構成員
2018年9月~2019年2月 OECD「AIに関する専門家会合(AIGO)」日本共同代表
IPEC国際法務英語ワーキンググループ座長及び英文契約書講座担当講師の平野先生は、総務省の「AIネットワーク社会推進会議」幹事、内閣府の「AI社会原則検討会議」構成員、OECDの「AI専門家会合」日本共同代表として活躍されています。
今回、平野先生より「OECDのAI原則~日本発の国際標準~」についてお聞きいたしました。
※「国際情報学部」は、東京都新宿区に本年4月から開校した中央大学の新学部で、「IT」(情報の仕組み)と「Law」(法学)の双方を教育(IT+Law)する学部ゆえに、通称「iTL(アイ・ティー・エル)」と呼ばれる。(last visited Aug. 12, 2019)
OECDのAI原則 第1回
パリに本部を置く「経済協力開発機構」(OECD)は、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ各国のみならず、日本を含む先進国が加盟して、世界の政策を牽引する国際機関である。例えば国際標準となるルールもOECDはとりまとめる。そのルールに加盟国の関係閣僚が署名して「理事会勧告」(Recommendation)になると、署名各国はこの勧告の順守と、必要ならば法整備も強く奨励される。例えば1980年に理事会勧告として採択された、いわゆるOECDのプライバシー8原則は、日本の「個人情報保護法」制定の原動力になったことでも有名である1。
パリ16区にあるOECD2
このように日本を含む世界中の先進国の法整備に多大な影響を与えるOECD理事会勧告として、今年の5月22日に新たに採択された5つの原則が、〈OECDのAI原則〉である。(後掲〈表1〉参照)このAI原則は、その翌月に日本で開催されたG20に於いてもそのままコピペされる形で〈G20のAI原則〉として採択された3。日本はそのG20とOECD双方の加盟国であるから、日本企業もAIを開発・利活用等する際には、この5原則を順守することが当然求められることになろう。
表1:〈OECDのAI原則〉の概要
5原則 | 概要 |
---|---|
1.包摂的成長、持続可能な開発、及び幸福 | AIは、包摂的成長と持続可能な発展、暮らし良さを促進することで、人々と地球環境に利益をもたらすものでなければならない。 |
2.人間中心の諸価値と公正 | AIシステムは、法の支配、人権、民主主義の価値、多様性を尊重するように設計され、また公平公正な社会を確保するために適切な対策が取れる-例えば必要に応じて人的介入ができる-ようにすべきである。 |
3.透明性と説明可能性 | AIシステムについて、人々がどのようなときにそれと関わり結果の正当性を批判できるのかを理解できるようにするために、透明性を確保し責任ある情報開示を行うべきである。 |
4.頑強性、セキュリティ、及び安全性 | AIシステムはその存続期間中は健全で安定した安全な方法で機能させるべきで、起こりうるリスクを常に評価、管理すべきである。 |
5.アカウンタビリティ(説明・責任) | AIシステムの開発、普及、運用に携わる組織及び個人は、上記の原則に則ってその正常化に責任を負うべきである。 |
出典:SeeOECD「42か国がAIの人工知能に関する新原則を採択」(last visited Aug. 12, 2019)(原則部分は拙訳).
ところで〈OECDのAI原則〉理事会勧告は、実は日本が主導権を執って世界に働き掛けて成立させた成果であった。更にその内容も、これまで日本が有識者会議を通じて3年以上も費やして検討・公表してきたAI諸原則・諸ガイドラインが全面的に活かされている。もっと端的にいえば、日本が久しぶりに世界をリードした、日本発の国際標準としてのAI原則が、OECDの理事会勧告に至ったばかりか、直後に日本で開催されたG20でも採択されて〈G20のAI原則〉としても認知されたのである。本稿ではその経緯や背景について紹介する。
※「国際情報学部」は、東京都新宿区に本年4月から開校した中央大学の新学部で、「IT」(情報の仕組み)と「Law」(法学)の双方を教育(IT+Law)する学部ゆえに、通称「iTLアイ・ティー・エル」と呼ばれる。(last visited Aug. 12, 2019)
1 See, e.g., OECD, OECD Principles on AI(last visited Aug. 12, 2019)
2 当記事掲載写真は筆者所蔵写真。Copyright © 2016-2019 by Susumu HIRANO. All rights reserved.
3 See 総務省「G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合の開催結果」2019年6月11日(last visited Aug. 12, 2019)