初心者のための英文契約書学習ガイド 【第5回】

実務で活かす!英文契約のドラフティング(作成)方法

これまでのコラムでは、英文契約書の基本用語、構造、読み方について解説してきました。本連載の最終回となる今回は、実務で英文契約書をどのように作成(ドラフティング)するかについて解説します。契約書作成の初心者が最初にぶつかる壁とその解決策について解説していきます。

ステップ4:契約書を作成する

1. 何を参考にすればいいのか?
契約書を作成する際に最初に直面する課題の一つは、「どのような契約書式や情報を参考にすべきか」という点です。英文契約書を作成する際には、以下のような情報源が参考になります。

● 過去の契約書(自社で締結した類似の契約書)
● 法律事務所が公開している契約書式
● ネット上で公開されている契約書式

「過去の契約書」は、自社の取引に合致したフォーマットや表現を学ぶのに適しています。そして、どのようなリスクに対してどのような条項が盛り込まれているのかを確認することができます。さらに、過去の契約書と今回作成する契約書を比較することで、業界の慣習や取引ごとの微妙な違いを把握するのにも役立ちます。

また、「法律事務所」が提供する契約書式は、法的リスクを抑える上で有用です。これらの契約書式は、最新の法律や判例を反映していることが多く、利用可能な範囲が広く、一般的な内容となっています。また、法律の専門家によって作成されているため、契約のvalidity(有効性)や enforceability(執行可能性)を意識して作成されている点も重要です。

特に、国際取引で用いられる契約書では、法的要件を満たしているかどうかが問題となることが多いため、信頼できる契約書式を参照することで、適正な契約書を作成することができます。ただし、これらをそのままコピー&ペーストするのは危険です。契約書は取引の内容や状況に応じて、その内容を調整する必要があり、画一的なフォーマットでは不適切な場合もあります。他社の契約書を参考にしていたとしても、その契約は異なる業界や取引形態を想定している可能性があるため、必ず自社の状況に合わせてカスタマイズし、適切な条項を選定することが重要です。参考資料はあくまでガイドとして活用し、自社の取引の実態に即した契約書を作成することが重要であることを意識しましょう。

2. 最初の契約書はこちらから提示することの重要性
英文契約書をドラフトすることが慣れていないという理由で相手方に契約書の提示を求め、それをレビューするほうが契約書を自らドラフトして相手方に提示することより楽だと初心者は考えがちです。しかし、この考えは間違いです。なぜなら、自社で契約書を作成することで、契約交渉の主導権を握ることができるからです。最初に自らが作成した契約書を提示することで、自社に有利な条件を設定できるというメリットがあります。契約金の支払期限、保証範囲、違約金などの細かい条件をあらかじめ自社に有利な形で規定できるため、交渉の出発点を優位に設定することができます。さらに、最初に契約書を提示することで、交渉の基準を作ることが可能になります。

例えば、支払条件や納期、契約解除の可否、保証の範囲など、自社の利益を確保しやすい条項をあらかじめ設定しておくことで、相手方が修正を求めた際に交渉材料として活用できます。交渉の場では、提示された契約書が基本となるため、自社の意向を反映させた契約書を提示することで、相手方の契約条件に受動的に対応するよりも、より有利な立場で交渉を進めることができます。

また、交渉戦略として「ハイボール戦略」を活用することもできます。

最初に自社にとって獲得したい条件よりもさらに有利な条件を提示し、交渉の過程で譲歩することで、別の重要な条件を勝ち取るという戦略をとることができます。

例えば、最初に長めの支払期限として90日を提示し、交渉の中で60日に譲歩する代わりに、遅延利息の設定や保証条件を強化するといった形で、自社の利益を守りながら、交渉の余地を活用できます。このように、契約書を自らドラフトし、最初に提示することは、単なる書類作成ではなく、交渉戦略の一環として重要な役割を果たします。

したがって、初心者であっても、可能な限り、最初の契約書は自らで作成し、提示するのが望ましいという点を意識することが重要です。

3. 契約書の表現は資産になる!ストックして活用する習慣を
英文契約書を作成する際、適切な英語表現を選定することは初心者にとってはとても難しいことです。英文契約書の表現は形式的であり、日常英語とは異なるため、一から作成しようとすると時間がかかり、表現の統一性も損なわれがちです。この問題を解決するには、英文契約書で用いられている契約書特有の表現をストックし、以降の英文契約書の作成に活用する習慣を持つことが重要です。

例えば、過去に読んだり、作成した契約書や自社で使用した契約書、法律事務所が提供する雛形の条項を整理し、頻出する表現をリスト化し、エクセル等に保存しておけば、次回の契約作成時に類似の表現を用いる必要が生じたときに、そのリストを活用することで迅速に必要な条項のドラフティングが可能となります。英文契約書の表現をストックする際には、単なるコピー&ペーストではなく、それぞれの条項の意図や適用範囲を理解し、取引の状況に応じて適切に修正できるスキルを身につけることが不可欠です。ストックした表現を活用することで、契約書作成の効率化と品質向上が期待できます。

まとめ:契約書のドラフティング力を高める
英文契約書の作成は、単なる文章の作業ではなく、自社の利益を守る交渉ツールとしての役割を持っています。最初に契約書を提示することで主導権を握り、リスクを抑えながら有利な条件を引き出すことが可能です。また、契約書の表現を蓄積し、実務で活用する習慣を身につけることで、契約作成のスピードと品質を向上させることができます。

ステップ5:学習を継続する

実務スキルを効果的に習得するには、専門的な指導を受けながら体系的に学ぶことが大切です。IPEC開催の「英文契約書講座~国際ビジネス法務実務~」では、様々な契約書を用い、実務で求められるポイントを詳細に解説します。

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