2026年6月30日
特定非営利活動法人プロフェッショナルイングリッシュコミュニケーション協会
理事 渡辺
はじめに
2026年4月に、学生への奨学金や教育機関への助成などのプログラムの提供を通して、アメリカのサイバーセキュリティ人材の育成を担っている国立科学財団(National Science Foundation、以下「NSF」という)は、20年以上にわたって使用してきた、サイバーセキュリティ分野の学位取得を目指す米国市民(適法永住者を含む)に対する奨学金と当該教育を提供する教育機関に対する助成のプログラムの名称変更を公表した。「CyberCorps® Scholarship for Service (SFS)」から「CyberAICorps Scholarship for Service (CyberAI SFS)」に変更にした。
NSFは名称変更部分の「CyberAI」という造語を広く定義し、(a) サイバーセキュリティ運用におけるAIの活用(自動化された脅威検知、AI支援型インシデント対応、AI主導の脆弱性発見)と(b) AIシステム自体のセキュリティ及びレジリエンス(敵対的攻撃に対する堅牢性、モデルの完全性、基盤モデルのサプライチェーンセキュリティ、プライバシー保護型機械学習など)の両方を包含するものとしている。これによって、名称変更された連邦政府の奨学金及び教育機関助成のプログラムCyberAI SFSは、「AIツールを使用する必要のあるサイバーセキュリティ人材」と「セキュリティを理解する必要のあるAI人材」の両方に奨学金を提供し、サイバーセキュリティ教育にAIを効果的に統合する高等教育機関を優先的に支援することになった。詳しくは、NSF 26-503: Artificial Intelligence and Cybersecurity Education Innovation and Scholarship for Serviceを参照のこと。
このプログラムの名称変更の理由は、連邦政府機関のサイバーセキュリティ人材計画(workforce planning)がAI人材計画と統合されたことにある。サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)、国家安全保障局(NSA)、国防総省(DOD)及び文民行政の各機関は、現在、AIアシュランス(AI assurance)、AIレッドチーミング(AI red-teaming)、AI調達セキュリティ(AI procurement security)及び敵対的機械学習防御(adversarial ML defense)をサイバーセキュリティ機能として扱っている。そして連邦政府の各機関は、2026年度人材計画において、サイバーセキュリティとAIの両方に精通している人材の確保と育成に注力を注いでいる。
またNSFは、「政府機関は、AIを活用して脅威を検知・分析し、かつ対処するシステムやアプローチが必要とされているのだが、AIとサイバーセキュリティの両方に精通した専門職人材の深刻な不足という問題に直面している。データパイプライン、AIモデル、導入・展開プロセス(deployment)といったAIシステムを保護するには、こうした専門職人材が必要不可欠である。」と説明している。AIの社会実装が進んでいる現在において、AIとサイバーセキュリティの両方に精通した専門職人材の問題は、政府機関のみならず、民間部門においても喫緊の課題となっている。
AIは、急速かつ爆発的に進化を続けており、攻撃対象領域と防御的メカニズムの両方を変革しつつある。攻撃者は、すでにAIを活用して標的をスキャンし、より大規模なフィッシング攻撃を展開し、アダプティブマルウエアを作成している。NSFは、サイバー攻撃がますます高度化・複雑化している状況に対抗できる人材を育成するためには、サイバーセキュリテイ教育における従来のアプローチでは不十分であり、サイバーセキュリテイ教育へのAIの統合が不可欠であるとして、CyberAI SFSを通して高等教育機関にその統合を促している。
そもそもAIは、脅威ベクター(threat vector)でもあり、防御を可能にする手段でもある。
AIシステムが新たな脅威を生み出す可能性がある一方で、AIを活用することで自動化、意思決定支援、迅速な脅威対応を通してサイバーセキュリテイを強化することができる。
サイバーセキュリテイ教育へのAIの統合の必要性が産学官のいずれからも叫ばれているにもかかわらず、アメリカにおいてでさえ、カリキュラム・ギャップ、教員の専門知識の限界、各種リソースの制約などにより、高等教育機関が提供する多くの教育プログラムが、急速に変化している政府機関や産業界の求める人材ニーズに十分に応えられていないという。
冒頭に述べた奨学金及び助成金プログラムの名称変更の前の2024年2月に、NSFは、国家安全保障局(National Security Agency、以下「NSA」という)の国立暗号学校(National Cryptologic School)によって運営されているNCAE-Cプログラム(The National Centers of Academic Excellence in Cybersecurity program: サイバーセキュリティ分野におけるアカデミック・エクセレンス・ナショナルセンターの高等教育プログラム)と協力して、サイバーセキュリティ教育へのAIコンピテンシーの統合という喫緊の課題に対応するCyberAI Program of Study(以下「CyberAI学習プログラム」という)を開発する取組みを立ち上げた。AIを既存のサイバーセキュリティ教育プログラムに統合する上でのカリキュラム・ギャップの解決を目指したガイドラインとでも言うべきCyberAI学習プログラムのモデルを策定したのである。
本稿は、上記のNSAのNCAE-CプログラムとNSFが主導して取り組み、策定したCyberAI学習プログラムのモデルを紹介するものである。
Ⅰ. NCAE-CプログラムとNSFの連携
Ⅱ. 各高等教育機関向けのCyberAI 学習プログラムのモデルとKU
Ⅲ. 基本用語の定義
Ⅳ. CyberAI 学習プログラムの内容
Ⅴ. CyberAI学習プログラムの学習成果
Ⅵ. 各学習プログラムのナレッジユニットの説明
おわりに
※本記事はIPECプログラムの受講生及び修了生向けに作成されたものです。
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