「英文契約書をスムーズに読めるようになりたい」と考えている皆さんにとって、最初に取り組むべきステップは契約書で頻繁に使われる用語を理解することです。英文契約書には法律特有の表現や専門的な用語が多く含まれており、最初は難しく感じるかもしれません。しかし、頻出する用語とその意味を押さえることで、契約書全体の流れや内容が理解しやすくなります。今回は、具体例を交えながらこれらの用語を解説していきます。
ステップ1:基本的な用語を習得する
1. Party(当事者)
"party"は、契約書で頻繁に使用される用語で、契約の当事者を指します。一方の当事者を"party"、複数当事者を"parties"と表現します。また、契約書では、"either party"(いずれかの当事者)、"neither party"(どちらの当事者も~ない)、"both parties"(両当事者)といった形で使われることもよくあります。
例文:
This Agreement is made between ABC Corporation ("ABC") and XYZ Limited ("XYZ") (hereinafter collectively referred to as “the Parties”, and individually as a “Party”).
本契約は、ABC株式会社(以下「ABC」)とXYZ株式会社(以下「XYZ」)の間で締結されます。(以下、ABCおよびXYZをまとめて「当事者」、個別には「当事者」と呼びます。)
契約書で当事者を"party"や"parties"と定義する主な理由は、当事者を簡潔に指し示すためです。この定義により、契約書内で当事者の名称を繰り返し書く必要がなくなり、文章が簡潔かつ分かりやすくなります。
2. Consideration(約因)
"Consideration"は約因を意味し、契約の当事者が互いに交換する価値のあるものを指します。例えば、売買契約では商品と代金、委託契約では役務と報酬が "Consideration"に該当します。英米法(コモンロー)では、"Consideration"が契約の主要な要素であり、これが欠ける契約は法的拘束力を持たないとされています。
例文:
In consideration of the goods provided by Corporation A and the purchase price paid by Corporation B, the parties hereby agree to enter the following sales agreement.
(A社が提供する商品とB社が支払う購入代金を約因として、当事者はここに以下の売買契約を締結することに合意します。)
契約書において”Consideration”を明記することで、当事者間の取引が単なる一方的な贈与ではなく、互いの合意に基づく法的拘束力のある契約であることが示されます。なお、英米法では"Consideration"に価値が必要とされますが、その価値の大小や種類に制限はありません(例えば、1ドルや小さな義務であっても当事者間で合意すればOK)。
3. Warranty(保証)
"Warranty"は、当事者が製品やサービスの品質や性能について一定の基準を満たすことを法的に約束する際に使われる用語です。“Warranty”を提供する当事者は、製品やサービスが契約に定める基準を満たさない場合、契約違反となり、修理、交換、返金などの対応を行う責任を負います。
例文:
Seller warrants that the products delivered under this Agreement shall conform to the agreed specifications and shall remain free from defects in material and workmanship for a period of two (2) years from the date of delivery.
(売主は、本契約に基づき納品された製品が合意された仕様に適合し、納品日から2年間、材料および仕上がりに欠陥がないことを保証します。)
この例文では、売主が製品の仕様と品質を納品日から2年間保証することを明記しています。このような条項は、製品やサービスに対する買主の安心感を提供し、万が一問題が発生した場合の責任や対応方法を明確にする役割を有しています。
4. Confidentiality(機密保持)
"Confidentiality"は、当事者間でやり取りされる情報の秘密を守るための義務を意味します。この義務は、個人や企業が顧客や取引相手の情報を機密として保持し、不適切に開示しないことを求めるものです。
例文:
The Receiving Party acknowledges and agrees to maintain the confidentiality of all information disclosed by the Disclosing Party under this Agreement.
(情報受領者は、本契約に基づき情報開示者が開示するすべての情報の秘密を守る義務を認識し、同意します。)
この例文では、情報受領者が開示された情報を秘密として扱う義務を負うことが明確にされています。この条項は、情報の適切な取り扱いを明文化することで情報漏洩のリスクを軽減し、当事者間の信頼関係を構築するための基礎となります。
5. Termination(解除)
“Termination”とは、契約の履行完了前または契約期間中に契約を解除して終了させることを指します。
これは、当事者の一方または双方が、契約の継続が困難または不必要であると判断した場合に行われる手続きです。
例文:
Either Party may terminate this Agreement upon thirty (30) days written notice to the other Party.
(いずれかの当事者は、相手方に30日前の書面通知を行うことで本契約を解除することができるものとします。)
この条項は、契約解除の条件や手続きを明確に定めることで、契約違反や特定の事象が発生した際に契約関係を円滑に終了させる役割を果たします。また、解除条件を事前に明確化することで、当事者間での紛争リスクを軽減できます。
6. Breach(違反)
"Breach"とは、契約違反を意味し、当事者のいずれかが契約条件を遵守しないことを指します。
例文:
If either Party breaches any material provision of this Agreement, the non-breaching Party shall have the right to terminate this Agreement immediately upon notice to the other Party.
(いずれかの当事者が本契約の重要な条項に違反した場合、違反していない当事者は相手方に通知を行うことで、本契約を直ちに解除する権利を有します。)
この例文では、重要な条項への違反があった際に、違反していない当事者が契約を即時契約を解除する権利を持つことが明示されています。契約違反は、当事者間の信頼を損ない、取引全体に悪影響を及ぼす可能性があることから、契約書では違反が生じた場合の対応や救済措置を明確に規定することが重要です。
7. Indemnity(補償)
"Indemnity"は補償を意味し、契約において一方の当事者が他方の当事者に対して損害や損失を補償する義務を定める際に使われる用語です。"Indemnity"を定めた条項では、契約違反や義務不履行、または特定の行為や事象に関連して生じる第三者からの請求や損害に対する補償が規定されることが一般的です。
例文:
Tenant agrees to indemnify and hold harmless Landlord from and against any and all Claims arising out of or relating to any failure of Tenant to comply with Tenant’s obligations under this Agreement.
(賃借人は、本契約に基づく賃借人の義務の不履行に起因または関連する全ての請求について、賃貸人を補償し、責任を負わせないことに同意します。)
この例文では、賃借人が契約に基づく義務を果たさなかった場合に、賃貸人に生じる損害や請求について賃借人が補償を提供する責任を負うことが示されています。この条項は、契約履行中に発生するリスクの所在を明確にし、責任分担を合理的に整理する役割を果たします。
8. Force Majeure(不可抗力)
"Force Majeure"は不可抗力を意味し、当事者が制御できない事象によって契約の履行が不可能になる場合に適用される条項に使われる用語です。"Force Majeure"には、地震や洪水などの自然災害、戦争、テロ行為、パンデミック、政府の行動などが含まれます。そして、"Force Majeure"に関する条項は、予測不可能で回避不可能な状況において、当事者が契約違反として責任を問われないよう保護する役割を果たします。
例文:
Neither Party shall be liable for any failure to perform its obligations under this Agreement if such failure is caused by events beyond its reasonable control, including but not limited to acts of God, war, or natural disasters.
(いずれの当事者も、神の行為、戦争、自然災害など合理的な制御を超えた事象による義務の履行不能について責任を負わないものとします。)
この例文では、合理的な制御を超えた状況が発生した場合、当事者が契約義務を履行できなくても責任を免れることが明示されています。この条項は、予期せぬ状況での当事者間の責任を明確化し、不必要な紛争を回避する役割を果たします。
9. Shall(~しなければならない)
"Shall"は義務を表す助動詞で、契約書において当事者が特定の行動を取ることを義務付ける際に使用されます。なお、契約書によっては"Will"が義務を表現するために使用される場合もあります。
例文:
The Buyer shall pay the purchase price within thirty (30) days of receipt of the invoice.
(買主は、請求書を受け取ってから30日以内に購入代金を支払わなければならない。)
この例文では、買主が支払い義務を負う具体的な条件が明確に記載されています。"Shall"を使用することで、法的に拘束力のある義務であることが明確化されます。
10. May(~することができる)
"May"は契約書で特定の行動を取る権利を当事者に与える場合に使用される助動詞です。この助動詞は、当事者に選択の自由を持たせる際に用いられ、義務を表す"Shall"とは区別されます。
例文:
The Seller may terminate the contract if the Buyer fails to make payment within the specified period.
(売主は、買主が指定された期間内に支払いを行わなかった場合、契約を解除する権利を有します。)
この例文では、買主が支払い義務を果たさなかった場合に、売主が契約を解除するかどうかを選択する権利を持つことが明確に記載されています。"May"を使用することで、当事者が選択肢を持つ権利を明確に定めることができます。
11. Notwithstanding(~にもかかわらず)
"Notwithstanding"は「~にもかかわらず」を意味し、契約書内で特定の条件や条項に対する例外を示す際に使用される用語です。
例文:
Notwithstanding any other provision of this Agreement, the Parties agree to extend the term of the contract by mutual agreement.
(本契約の他の条項にもかかわらず、当事者は相互の同意により契約期間を延長することに合意します。)
この例文では、契約書の他の条項の規定よりも優先して、当事者の合意に基づき契約期間を延長することができると規定しています。
"Notwithstanding"を使用することで、特定の例外事項を明確に示し、通常の条件や条項よりも優先的に扱うべき内容を効果的に記載することができます。
まとめ
英文契約書において基本的な用語を正しく理解することは、契約書全体の意図を把握し、重要な条項を見逃さないための第一歩です。次回は、契約書の全体構造に焦点を当て、各セクションがどのような役割を果たしているのかを詳しく解説します。基本的な用語と構造の理解が組み合わさることで、契約書の読解がさらにスムーズに進められるようになるでしょう。次回はステップ2として「契約書の構造を理解する」をテーマに、契約書で多く規定されている条項について解説をしていきます。
<<第1回へ 第3回へ>>